3-maticを用いた脳動脈瘤研究
河野健一(Kenichi Kono)
和歌山労災病院 脳神経外科
和歌山県和歌山市木ノ本93−1
E-mail: vyr01450@gmail.com
図1:動脈瘤の3次元画像
1. 緒言
私は和歌山労災病院で脳神経外科医として勤務しながら、脳動脈瘤の数値流体解析(computational fluid dynamics simulations; CFD)などの研究を行なっています。研究には脳血管、脳動脈瘤の3次元dataを加工する必要があるのですが、3-maticを用いてその作業を行なっています。3-maticは3次元形状の加工や作成において様々な便利な機能が用意されており、大変使いやすく重宝しています。そのお陰で3-maticを用いた論文を幾つか発表することができ、学会での賞を受賞することもできました[1-11]。今回、その3-maticについて、具体的にどのように利用しているのか紹介させて頂きます。
図2:Streamline
2. 脳動脈瘤とは
研究の対象となっている脳動脈瘤について簡単にご説明します。
脳の動脈がコブの様に膨れたものを脳動脈瘤と言います。その中でまだ破れていないものを未破裂脳動脈瘤と言います。未破裂脳動脈瘤は破裂するとくも膜下出血となり、命にかかわる重篤な状態になります。近年、MRIやCTなどの画像診断装置の発達や、脳ドックMRIなどの増加により、未破裂脳動脈瘤が見つかる事が多くなっています。未破裂動脈瘤が見つかった場合は、破裂を未然に防ぐための外科的治療、すなわち開頭術(クリッピング術)或いは血管内治療(カテーテル治療)を行うかどうかを検討する必要があります。現在は動脈瘤の大きさ、形、部位などで破れやすさを判断し、治療方針の指標としていますが、破裂の危険性をより正確に判断するために様々な研究がおこなわれています。そのひとつとして流体解析を用いた研究が行われています。
図3:Wall Sear Stress
3. 脳動脈瘤の流体解析
脳動脈瘤の流体解析は以下の方法で行なっています。まず、脳血管撮影装置を用いて3Dの血管形状を得ます(図1)。それを3-maticを用いて細かい血管を省きスムージングをかけて流体解析が可能な形状に編集します。その後、ANSYS CFX(ANSYS社)を用いて解析を行います。実際に血管内治療を行った脳動脈瘤のシミュレーション結果が図2−3です
3-maticを用いて血管形状を整えている過程を図4−5に示します。
図4:3-matic上での作業
4. 臨床への応用
研究の成果は国内・国外の学会で発表している他、論文として報告しています[1-8]。臨床現場に直結した論文が多い事が特徴です。逆に現在の主流である多くの症例数を集めたCFD研究はひとつもありません。これは一人で行なっている弊害でもあるのですが、逆に臨床からCFD解析まで一人でおこなっているからこそ出来る利点とも言えます。
一つ例を挙げさせて頂きます[4]。論文は以下よりfree downloadできますので、そちらに掲載されている図を参照して頂くと、どのように3-maticを利用したか良く理解することができると思います。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nmc/53/3/53_2012-0119/_pdf
未破裂脳動脈瘤に対しステントを併用したコイル塞栓術を行い、半年後にフォローアップの脳血管撮影を行いました。すると、ステント内が閉塞していました。幸い患者さんは元気であり、脳梗塞なども起こしていませんでした。ステント内閉塞の報告はありますがかなり稀です。抗血小板薬を減量した後に起こった報告もありますが、本症例では抗血小板薬の減量は行なっていません。何故ステント内が閉塞したのか考えました。ステントを留置した事により血管の変形が起こり、血管が折れ曲がり閉塞した可能性があることに気付きました。しかし、これを証明する必要があります。そこでステント挿入前、挿入直後、閉塞後(半年後)の3つの3次元画像を重ね合わせる事にしました。3-maticを用いて余分な細い血管を省き、注目すべき血管のみを抽出しました。そして3つの画像を3-maticのregistration機能を用いて重ね合わせました。すると予想通り半年後には血管が折れ曲がる形状になっている事が分かりました。ステントにより血管形状が変わり、ステントが閉塞したことを示したのは本論文がはじめてです。3-maticが無ければ3つの3次元の画像を綺麗に重ね合わせる事はできず、主張が曖昧になってしまったはずです。
実際の血管形状を修正する以外に、3-maticでは人工の3次元モデルを自由に作成できます[8]。また3-maticは比較的短期間でversion upが行われ、毎回新しい機能が追加されています。サポートもAnnuar様を中心として迅速で適切な対応が取られています。
図5:3-matic上での作業(拡大)
5. 最後に
脳動脈瘤の研究を行うにあたって多くの方々にお世話になっています。特にAnnuar Khairul様(Materialise Japan)、石田藤麿先生(三重県立中央医療センター)、久保謙治様(ANSYS Japan)、当院の放射線技師、臨床検査技師の方々には大変お世話になっており、ここに感謝の意を表します。
6. 関連論文など(全て3-maticを利用しています)
- Kono K, Shintani A, Fujimoto T, Terada T: Stent-assisted coil embolization and computational fluid dynamics simulations of bilateral vertebral artery dissecting aneurysms presenting with subarachnoid hemorrhage: case report. Neurosurgery. 2012;71(6):E1192-1201
- Kono K, Fujimoto T, Shintani A, Terada T: Hemodynamic characteristics at the rupture site of cerebral aneurysms: a case study. Neurosurgery. 2012;71(6):E1202-1209
- Kono K, Terada T: Hemodynamics of eight different configurations of stenting for bifurcation aneurysms. AJNR Am J Neuroradiol. 2013, Apr 11. [Epub ahead of print]
- Kono K, Shintani A, Tanaka Y, Terada T: Delayed in-stent occlusion due to stent-related changes in vascular geometry after cerebral aneurysm treatment. Neurol Med Chir (Tokyo). 2013;53(3):182-185.
- Kono K, Shintani A, Okada H, Terada T: Preoperative simulations of endovascular treatment for a cerebral aneurysm using a patient-specific vascular silicone model. Neurol Med Chir (Tokyo). 2013;53(5):347-51.
- Kono K, Tomura N, Yoshimura R, Terada T: Changes in wall shear stress magnitude after aneurysm rupture. Acta Neurochir (Wien). 2013 May 29. [Epub ahead of print]
- Kono K, Terada T: Treatment Strategy and Follow-up Evaluation for an Unruptured Anterior Communicating Artery Aneurysm Associated With Pseudo-occlusion of the Internal Carotid Artery Using Computational Fluid Dynamics Simulations. Turk Neurosurg. In press.
- Kono K, Masuo O, Nakao N, Meng H: De Novo Cerebral Aneurysm Formation Associated with Proximal Stenosis. Neurosurgery. 2013. In press.
- 優秀ポスター賞(銀賞)
河野健一、他 「頭蓋内ステント留置による血管形状変化とcomputational fluid dynamics (CFD)解析」 第27回日本脳神経血管内治療学会学術総会 (2011年11月) - 優秀ポスター賞(金賞)
河野健一、他 「Yステントの血流解析」 第28回日本脳神経血管内治療学会学術総会 (2012年11月) - グラフィックスアワード特別賞(MicroAVS賞)
河野健一、寺田友昭「分岐部脳動脈瘤に対する様々なステント留置方法における血流解析」 第18回計算工学講演会(2013年6月)