サウジアラビアのキングファイサル専門病院・研究センターで、構造的・先天的な心臓疾患治療を専門とする、マンスール・アルジュファン医師と彼のチーム。複雑なインターベンションを計画する際、患者の生体データをもとに3Dプリントされたモデルが大いに役立つことに、彼らは早くから注目していました。

そこでマテリアライズの心臓血管専門チームはアルジュファン医師と協力して臓器モデルを3Dプリントすることに。担当チームはMimics Innovation Suiteソフトウェアを使用し、患者の生体データから右心室流出路(RVOT)の3Dモデルを作成。そのデジタルデータをもとに臓器モデルが3Dプリントされました。製作された3D臓器モデルは3つのインターベンション治療準備とシカゴで行われたPICS-AICSシンポジウムでの症例の解説に用いられ、治療の様子はその後、シンポジウム内でリアルタイム放送されました。

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バルーンカテーテルの寸法を3Dプリントした臓器モデルで確認

難易度の高い生体構造の3Dプリントに挑む

心臓カテーテル法はかなり一般的になってきていますが、もちろん生体構造は各患者さんによってさまざま。そのため施術内容も毎回違ったものになります。

さらに新型医療機器も日々新たに登場しています。そして新たな医療機器が利用可能になるたび「生きている人間に初めてその施術を行うドクター」の手に、命をゆだねる患者さんが存在しているのも事実。

アルジュファン医師と彼のチームがPICS-AICSシンポジウム内で解説した3つの症例は、非常に珍しい生体構造、またそれに合わせた新サイズの医療機器の使用を含む、特に難易度の高いケースでした。

各患者の生体構造に忠実な3D臓器モデルを用いれば、医療機器が患者の臓器にフィットするか、どの位置にそれを置くのかなど、治療前のシミュレーションが可能になります。複雑な生体構造と新型医療機器を扱う今回のようなケースでは、こうしたシミュレーションが非常に大きな意味を持ちます。
 

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Mimics Innovation Suite 上で再現された、治療部位のデジタル3Dモデル

3D臓器モデルを利用すれば、
医療機器の適合性を施術中に再度チェックすることも

アルジュファン医師と彼のチームは、エドワーズライフサイエンス社が開発した29mmの生体弁を心臓カテーテル法で移植する治療を実施。3つの症例全てが幅広で複雑な構造のRVOTを扱う、困難なケースでした。

この課題を解決すべく、マテリアライズの臨床エンジニアはMimics Innovation Suite内のソフトウェアを用いて複雑なRVOTを3Dモデルで再現。その後各患者の生体データに忠実な臓器モデルが3Dプリントされました。

アルジュファン医師は治療前、さらにカテーテル処置の最中にもこの3D臓器モデルを使い、バルーンカテーテルが各患者のRVOTにフィットするか確認。カテーテルの効果性と適合性をテストしました。

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硬い3Dプリンタ製モデル上で測定を行う様子

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左が柔らかいモデル、 右が硬いモデル

3Dイメージングと3Dプリントが、複雑な事例の治療計画を支援

3つのケースのうち、ひとりの患者のRVOTは膨らみと不均一さが目立ち、治療は困難を極めると予想されました。さらにこの患者のRVOT上では、ステントのランディングゾーンも非常に短くなってしまいます。

そこで治療チームはMimics Innovation Suiteソフトウェアを用い、医用データを基に患者の生体構造をコンピュータ上で忠実に再現。デジタル3Dモデルがあれば複雑な構造もじっくりと観察することができ、治療前に深い洞察が得られます。この患者の場合、デジタル3Dモデルを製作したことで右心室の楕円性、変形部や不均一な伸張性を持つ部分などを分析することが可能になりました。

さらに3Dモデル上ではステントのランディングゾーンの特定、この治療に選ばれた経皮的肺動脈弁置換術(PPVI)用のステントサイズのチェックも行われました。この治療に用いられた29mmの経皮的肺動脈弁ステントは、それまでどの患者に移植されたステントよりも大きいものでした。

コンピュータ上の3Dモデルはその後3Dプリントされ、実際に触れることのできる3D臓器モデルに作り替えられました。アルジュファン医師はこの臓器モデルを使い、患者さん自身、彼女の家族、そして治療を担当するチームと治療の手順を話し合いました。

この治療のため、マテリアライズが提供したのは2種類の異なる3D臓器モデル。ひとつは光造形技術を使って3Dプリントされた硬い透明樹脂製のもの。もうひとつは、心臓血管組織に近い柔軟性が再現できるマテリアライズ独自の3Dプリント用素材HeartPrint® Flexを用いて3Dプリントされたものです。

治療を担当したチームは硬いモデル上で必要な測定を行い、柔らかいモデル上では実際の治療に用いるバルーンカテーテル取り付けシミュレーションを行いました。3D臓器モデル内でバルーンを広げた後は、それをぐっと引っ張り、きつく締まっていることを確認することまで可能に。 さらには29mmの大きな弁移植に必要なステントの安定性も、3D臓器モデルを使って確認されました。

3Dプリンタ製臓器モデルを使用した今回の経験について、アルジュファン医師は次のように語っています。「画期的な大型弁移植が可能になっただけでなく、手術時間、回復時間を短縮し、開胸手術を避けることもできました。私にとってこの種の手技は初めてだったものの、自信を持って臨むことができました。3Dプリント技術は、構造的心疾患治療の一部として統合されていく必要があるでしょう」

「画期的な大型弁移植が可能になっただけでなく、手術時間、回復時間を短縮し、開胸手術を避けることもできました。私にとってこの種の手技は初めてだったものの、自信を持って臨むことができました。3Dプリント技術は、構造的心疾患治療の一部として統合されていく必要があるでしょう」

心臓カテーテル室に統合されていく、3Dプリントの未来

心臓カテーテル室でも、3Dプリントモデルを使用して複雑な施術の準備を行なうケースは増えるばかり。心臓血管領域の3Dイメージングと3Dプリントの利点は、収縮期と拡張期の両極端でも、その他心周期のどんなタイミングを取っても、生体構造をキャプチャできる点にあります。

現在米国外ではロンドン市内のグレート・オーモンド・ストリート病院、ガイズ・アンド・セントトーマス病院、そしてアルジュファン先生の所属するサウジアラビアのキングファイサル専門病院が構造的心疾患の治療に3Dプリント技術を統合しています。

インターベンション治療のシミュレーションは、医療機器の適合性向上だけでなく、施術時間の短縮にもつながる可能性があります。3Dイメージングや3Dプリントは、患者さん一人ひとりにパーソナライズされた心臓用医療機器製造への可能性も広げていくでしょう。
 

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アルジュファン医師とその恩師アルファドリ医師

マンスール・アルジュファン医師
キングファイサル専門病院・研究センター(KFSH&RC)について

アルジュファン医師はコンサルタントとして活躍する心臓病学者であり、サウジアラビア、リヤド所在のキングファイサル専門病院・研究センター内心臓センターのカテーテル検査研究所所長です。米国ボストンのボストン児童病院とマサチューセッツ総合病院での訓練を経、構造的心疾患の経皮修復を専門としています。心臓専門のシニアドクター兼心臓病学の教授でもあるファデル・アルファドリ医師の支援を得てキャリアを形成したというアルジュファン医師は、今もアルファドリ医師を恩師として慕っています。KFSH&RCの使命は、総合的な教育と研究の場面で最高レベルの専門医療を提供することです。

PICS-AICSシンポジウムでリアルタイム放送された実際の治療の様子はこちらからご覧いただけます。

規制情報

文中で言及されているソフトウェアは2014 年11 月「画像診断装置Mimics Innovation Suite」(認証番号:226AFBZI00159000)として医療機器の認証を取得し販売しております。

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