人工衛星を軌道に乗せる際、その重量1kgあたりに約200万円もの費用がかかること、みなさんはご存知でしたか?だからこそ、重量最適化は宇宙探査機用のパーツを設計する際の最大の課題。ただし軽ければいいというものでももちろんなく、確かな強度や高い機能性も同時に要求されます。マテリアライズの3Dプリントサービス事業部がヨーロッパで3番目の規模を持つITサービス企業 Atos と共同で挑んだのは、チタン製人工衛星用ジョイント部品の「変革」。複雑な形状も難なく出力できる金属3Dプリントの強みを十分に活かし、新型パーツの重量を旧型と比べ66%削減することに成功しました。

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3Dプリントとスマートな設計で「軽くて強い」を実現

このジョイント部品は人口衛星内のいくつかのコンポーネントをつなぎ合わせるためのもの。航空宇宙産業で広く用いられるこの部品は、人工衛星などの構造内で発生する高い機械的負荷を伝達する役割を果たします。大きく重い構造を持ち上げるこの部品には、相当の負荷がかかります。つまりこの部品に欠かせないのは、強度重量比を最大限まで高められる設計。高い比強度と剛性を維持しつつも重量は最小に留めた「軽くて強い」部品である必要があるのです。

アルミやチタンを使って機械加工で製造されるこのジョイント部品は、通常レンガのような形をしています。しかし内部が完全に詰まった状態のこの部品は質量、製造コスト共にかなり大きくなることがほとんど。さらに大量の素材を使用するための製造コストだけでなく、重い部品を載せた宇宙探査機の打ち上げに必要な、運用コストまでかさんでしまいます。

アルミやチタンなど、これまでと同じ素材を用いながらも全く異なる設計の部品製造を可能にする金属3Dプリント,は、今回のような課題にもユニークな解決法を提供してくれる技術。さらにリードタイムを今までの方法と比べ格段に短くできるという利点も、この技術が航空宇宙産業に将来もたらす、とてつもない影響力を示唆していると言えるでしょう。

 


3Dプリントのための設計最適化

このプロジェクトに挑んだエンジニア達は、従来のジョイント部品の概念を覆すことに挑戦します。アイデアを練る段階から製造に至るまで、航空宇宙用パーツとしての基準を全てクリアする設計が実現できるよう、綿密な計算が重ねられました。Atosの航空宇宙工学と構造シミュレーションに関する豊富なノウハウも、この部品全体の機能を向上させるのに大いに役立っています。

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3Dプリントを使って部品を製造すれば内部をくり抜いて空洞にしたり、軽量構造に置き換えることができるため、本当に必要な箇所にのみ出力用の素材を使うことができます。マテリアライズとAtosのエンジニアはこの技術ならではの強みを活かし、まずは部品内部の素材使用量を削減することに注力しました。

トポロジー最適化Materialise 3-maticで設計した格子構造などの高度な技術を駆使して出来上がったのは、内部に格子構造を含んだサンドイッチ型の部品。解析と設計を繰り返した結果を反映させ、負荷の大きい箇所の内部は太い格子が、そうでない箇所には薄い格子が適用されています。さらに造形は可能か、造形後は内部に溜まった余分な粉を取り除けるかなど、製造時の条件ももちろん考慮。マテリアライズの持つエンジニアリング、ソフトウェアと3Dプリント製造全てのノウハウを結集させ、限界まで最適化された部品全体の質量は、従来部品と比べ66%減を実現。通常1454グラムの部品を500グラムまで減らすことに成功しました。

質量削減以外に加え、プロジェクトに関わったエンジニア達は旧来の設計に存在した熱弾性応力の問題も解決。ジョイント部品は炭素繊維で強化されたポリマーを硬化させるのと同時に所定位置に挿入されるため、熱弾性応力にさらされます。最適化済みの設計はこうした圧力への脆弱性を低減させ効率的に負荷を分散させられるため、結果として部品の寿命を延ばすことにもつながるのです。


航空宇宙産業での3Dプリント活用は始まったばかり

新しいデザイン完成後、2つのジョイント部品がマテリアライズの金属3Dプリント工場を通じ、 チタン (TiAl6V4) 素材で3Dプリントされました。ドイツ・ブレーメンに位置するこの金属3Dプリント工場は今回のように高度なものづくりを行うだけでなく、金属3Dプリントに最適なソフトウェア開発のハブともなっています。

「このように人工衛星に積む部品の軽量化が可能になれば、有益な部品をより多く積むことができるだけでなく、一回の打ち上げにかかる費用もかなり削減できます。この技術革新は、我々が真に誇れるものとなりました。こうした複雑な製品をこれだけ短い時間で金属3Dプリントできたのですから、Atosとマテリアライズはこれからも金属3Dプリント技術をリードしていく企業となるでしょう」
Atosスペインで機械工学部長、マルタ=ガルシア・コシオ氏

まだまだ航空宇宙産業での3Dプリント活用は始まったばかり。研究の末製造に成功した今回の部品のように、マテリアライズはこれからも航空宇宙産業の常識を覆すものづくりを進めていく予定です。

 

3Dプリント成功の鍵は、最適化された3Dデータ。

今回の人工衛星用パーツ製作プロジェクトや、トヨタとマテリアライズが共同製作した3Dプリンタ製未来型軽量シート。複雑な設計最適化が求められるこうしたプロジェクトを可能にしたのは、3Dプリント用設計最適化ソフト Materialise 3-maticです。FEAツールともスムーズに連携できるこのソフトは、パワーアップした新バージョンがリリースされたばかり。詳しくは Materialise 3-matic 製品ページからご覧いただけます。